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東京家庭裁判所 昭和42年(少イ)2号 判決

被告人 和田善次

主文

被告人を懲役二月に処する。

未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する。

理由

一、罪となるべき事実

被告人は法定の除外事由がないのに、昭和四一年一二月一日頃東京都世田谷区烏山町一八一五番地近藤アパート内の被告人が借用中の居室において、児童である○藤○夫(昭和二五年七月三日生)および野○茂(昭和二四年一〇月一四日生)の両名を児童の心身に有害な影響を与える行為であるパチンコ店の景品買をさせる目的で輩下として住込ませ、その頃から昭和四二年一月一二日頃までの間東京都調布市金子町一二五七番地ふたばパチンコ店附近、同市金子町九九三番地大陽パチンコ店附近および同都世田谷区烏山町六四〇番地さくらパチンコ店附近等において、右パチンコ店の景品買取行為に従事させ、もつて児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置いたものである。

二、証拠の標目(編 省略)

三、弁護人の主張に対する判断

(1)  被告人和田が年少者をしてパチンコの景品を買受けさせた行為は児童の心身に有害な影響を与える行為に該当しないとの主張について

被告人和田はパチンコの景品買をするに際しては、交換所を設け、そこに景品を持参した客から景品買をし、またその景品も煙草等は取り扱わず、調味料のフレープに限る等法令に違反しないような配慮をしていたものである。しかし、児童が心身ともに健やかに成長するようにその福祉を守ろうとする児童福祉法の精神から見れば、法令に違反しない行為であるというだけでは児童の心身に有害な影響を与えないものとすることはできない。風俗営業等取締法および施行条例がパチンコ遊技場の営業について監督取締を行つているのは、パチンコ遊技をして市民の娯楽としての健全性の限界を保たせようとしてのことで、遊技場が現金を賞品としたり賞品を買い取ることを禁じているのは遊技客に対し過度の射倖心をあおることのないようこれを取締つているものである。従つてこれらの取締法令に触れない状態を整えてもパチンコの景品買いはやはり取締の目的からいえば好ましくない行動であることはいうまでもない。しかも現在では、これらの行為はやくざの組織下或はその了承の下に営まれている例の多い現状から考えてパチンコの景品買に従事することはそのこと自体児童の心身に有害な影響を与えるような行為と見るのが相当である。その上被告人はこれらの年少者を昼過ぎから夜中まで働かせ、客の来ない間はパチンコをしたり漫画を読んだりという怠惰な生活をさせていたものでこのような生活を続ければ健全な勤労意欲は減退し、成長期にある年少者にとつて有害な影響を与えることは明らかである。

(2)  自己の支配下においていなかつたとの主張について

児童福祉法第三四条第一項第九号に所謂「自己の支配下におく」ということは児童を心理的外形的に抑圧して児童の意思を左右できる状態におくことであるが、かかる状態は客観的に判断すべきもので、年少者を自己の管理下のアパートに住わせて食事を供し、毎日小遣を与え、その指図の下にパチンコの景品買に従事させていた被告人は、これら年少者が被告人の許に止ることを強制されていなかつたにしても、被告人の許にいる限りはその支配下においたものと見られるのである。

四、法令の適用

被告人の判示行為は児童福祉法第三四条第一項第九号、同第六〇条第二項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、右は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同第四七条により法を加重した刑期の範囲内で被告人を懲役二ヵ月に処し、同第二一条を適用して未決勾留日数三〇日を右本刑に算入し、主文のとおり判決する。

(裁判官 三渕嘉子)

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